Never Ending Summer

バンコク在住日本人ギタリストの日記

After Rain Comes Chaos

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街のあちこちが冠水して本格的な雨季の始まりを感じた昨日のバンコクソンクランが暑かった分の反動なのか心なしか例年の5割増しくらいの勢いで雨が降っていたような…(笑) 昼の仕事を終えてアパートに向かう道中、スクンビットの交通状況は既にグダグダでカオスが始まっていた。

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先週の金曜のことを思い出せば、この後の移動はスムーズにいかないだろうな…と、この時点で予想できた。部屋に戻って景気づけにビール片手に機材をまとめてとりあえず大きな道に出ようとぺッブリーまで歩いて路肩でタクシーを待つこと1時間…1台も空車が来ない。流石に待つのにも飽きたのでグーグルマップで位置を確認するとラムカムヘン・ソイ10 のスタジオまで徒歩40分という表示。《いけるな…》ってことで覚悟を決めて着ていたシャツを1枚脱いでES‐335を担いでペダル満載のキャリーバックをゴロゴロ転がしながらペップリーを歩き出した。

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障害物と段差だらけのバンコクの歩道は20キロのキャリーバックを引きずってギターを担いで歩くにはまったくもって向いていない。俺と同じようにバスやタクシーを諦めて歩いて家路を急ぐ人やら屋台で夕食中の皆さんやら無計画に道をふさいで立っている電柱やら歩道を逆走してくるバイタクやら大きな水たまりを避けて右往左往しながらゴロゴロ音を立てて歩いていると、どうやら俺のライブを見たことがあるらしいタイ人の男の子が追いかけてきて『KOTA!』とタイ人らしいはにかんだようなやさしい笑顔で俺の名前を呼んだ。『今から友達がバイクで俺を迎えに来るから一緒に乗っていきなよ』と言う。めっちゃやさしいなぁ(涙)と感動したが、機材を担いでバイク3ケツは無理。『ありがとう!でもめちゃくちゃ重いからバイクは無理なんだ。大丈夫。いけるよ。マイペンライナ!』と言い残して手を振って歩き続けた。

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シャツの色が全部変わるくらい汗だくになって歩いていたせいか、ラマ9を渡る時はなぜか交通整理をしていた警察官が渡り切るまでずっと横について先導してくれた。工事中のソイ・ラムカムヘンは路肩に嫌がらせのように障害物が配置されていて歩きにくいことこの上なかったが、なんとかスタジオのあるパクソイに辿り着くと背が高くてめちゃめちゃシャイな雰囲気のスタジオの主のヨウ君が待っていた。『Hi KOTA!渋滞凄いね。どうやって来たの?』と聞くので『歩いて』と言うと『え?どこから!?』『エカマイのアパートから』と答えると歩くのが大嫌いなタイ人である彼は絶句して固まっていた(笑)『OK、とにかくなんとか着いたし早速はじめようぜ』と目を丸くして固まっている彼の背中を叩いてスタジオへ向かった。

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当たり前だが、扉を開けると彼の送って来たこの写真と同じ光景が目の前にあった。いろいろなアイテムが撮っ散らかっている雑然としたガレージスタジオ。歩いてきたせいかツアーの時に会場に着いた時のような妙な感動があった。既に2台のギターアンプにはマイクがセットされていてパソコンもスタンバイ済みでしっかり録音の準備がされていた。汗だくの俺を見て彼が買って来てくれたビールを飲みながらセッティングの間に軽く話をしたが、彼は身体はデカいけど声がめっちゃ小さい。もともと聞き取るのが苦手なタイ語だけでなく英語も蚊の鳴くようなボリュームなのでまったく聞き取れず、簡単な質問を何度も何度も聞き直す羽目になって最終的には対面しているのに『わからんから書いてくれ』とスマホまで使ってやりとり…このあたりからだんだん面白くなってしまって『きみ声ちっちゃすぎるわ。それじゃどないもこないもわからんで』と関西弁で突っ込んで笑い出してしまった。彼は日本語が解らないので困ったような顔で笑っていたが『まあいいや、今日はふたりでセッションをやるんだな?』と言うとその返事だけはしっかりしていた。『そう。インプロビゼーションだ。録音していい?』と聞くので『もちろん』と言ってビールを飲み干して音を出した瞬間から録音が開始された。

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ブレイクを挟みつつ2セット録音。彼は今までに何度かライブを見に来ていたらしいけど、友人としては昨夜初めて会って、挨拶してすぐにジャムを演ったわけだが彼は個性的なセンスを持ったギタリストで腕も悪くなかった。後で聞いたら人前に出るのが嫌いで作品を録るばかりでライブはほとんどやらないそうだが…(笑) 相性が良かったようでいきなりフリーキーでダークでメロウな面白い音が出た。長い道のりが報われた感じ。それに、やはりデカいアンプで演ると音がダイナミックでギターを弾くのが楽しい。ブレイク中に録音を聞き直しながら軽くリクエストを伝えて2セットがスタート。うん。良い感じ。ファーストコンタクトにしかないライブ感。音を聞き直すと悪くない感じ。ヨウ君も気に入ったようで『発表していいか?』と聞くので『いいけどタイトルを付けたい。音を聞いて考えるからミックスしてから音源を送ってくれ』と伝えた。タイトルは結構大事だと最近になって気づいた。名前を付けると命が入って、そこでやっと作品になるって感じだ。

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行きとは違ってスムーズにタクシーを掴まえた帰路の途中でまだ混沌としているラムカムヘンの街の様子を眺めていたら、

【After Rain Comes Chaos】というタイトルが浮かんだ。

悪くないタイトルだ。これでいいや。

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昨日から始まったこのお芝居の中で俺の音が使われているらしい。しかし、フライヤーを見てもどんな芝居なのかぜんぜん予想できない…(笑)サウンドデータを提供しただけなのでどんなふうに使われているのかはわからないけど弾きっぱなしのメモ音源が友人の表現の役に立つとは思っていなかったのでオファーが届いた時はちょっとビックリした。俺としては結果として演奏できる場所が広がっていけばどう使われても何も文句はない。昨夜の音源も俺を知らなかった連中に届けばそれでよい。今の流れがいつ新しい波を起こすのかはわからないが何か起きるだろうとは予感はしている。今までもそうだったが、Just keep on moving !! ってことでとにかく弾き続けるだけである。 

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20代の頃好きだったこの曲もWEB上ではすっかりクラブクラッシック扱い。俺も前世紀の遺物なのだな…と思う今日この頃だ。