Never Ending Summer

バンコク在住日本人ギタリストの日記

Doing nothing is true luxury time

画像に含まれている可能性があるもの:海、空、屋外、水

当初の予定より滞在を1日伸ばしてフアヒンには計3日間滞在した。初日に SssHhh Barでライブを演ってその後2日間は完全に何もしなかった。レコーディングと個人的快楽の為にギターは毎日弾いてたけど…ゲストハウスの屋上のウッドデッキに座って午後の凪で一直線になった水平線を見ながらゆっくりと音を奏でるのはシンプルに気持ちが良かった。何もしないってのは本当に贅沢だ。黄昏時にチェットベイカーの音源を聞きながらこの世の果てって感じの景色の中で微睡んでいると、生きてるんだか死んでるんだかわからなくなってくる。なるほど年配の旅行客が多い理由がよくわかる…彼らはこの気分を味わいにここに来ているのだな…と半覚醒状態で思ったわけだが、要するに俺もすっかり年配なのだ。何もしないことをこれだけ楽しめるとは(笑)

今回のゲストハウスはゴージャスとは言い難かったけどルーフトップのウッドデッキが最高に気分が良いというだけで俺には充分だった。辺りのゲストハウスやレストランは海の上に建っていて、夜になると潮が満ちて足元から波の音がしてライトの反射光が揺らめいて幻想的だ。海はとても穏やかで船も少なくて騒音をまき散らすジェットスキーや景観を壊すパラセーラーもいない。数年前に亡くなった前国王が愛したのはフアヒンのこの何もない静かな海じゃないかな…と考えていた。床下には何匹かの犬がいて建物の影でゴロゴロしている。定期的に砂浜を馬が行き交う。ビールを片手に『俺もバイクより馬が欲しいなぁ』と呟いたら一緒にいたジョイに涙が出るくらい大笑いされた。ギターを背負ってバンコクを馬で走る俺を想像したらしい。

『本当にそれをやったらテレビが撮りに来るだろうからスターになれるわ(笑)』

『確かに。それくらいやったほうがいいかもな。ただ馬はでかすぎるし金がかかるだろう。俺は貧乏ミュージシャンだから精一杯がんばってもポニーだな。小回りが利いてバンコクにはちょうどいいだろ?』

と真面目な顔で言ったら彼女は泣きながらしばらく悶絶していた。そんなにおもろいならやってみるかな。皆に楽しんでもらえるなら悪くない話だ。

画像に含まれている可能性があるもの:1人以上、夜、室内

コロナ騒ぎでお客さんが集まるのか心配していたが Ssshhh Bar にはたくさんの人が集まってくれた。GaryRichard の ユニット Floating World には今回新たに Cassie というアメリカ人の電気チェロ奏者が加わっていたが、結果とてもバランスが良くて美しい構成になっていた。Richardは今回はマーケットで見つけたという日本の琴とソプラノサックスを弾いていた。Richardは木工芸をやるので自分で壊れていた部品を作って修理したらしい。彼はとても優しい音色を奏でる。琴の音色も彼の持っているメロディーによく似合っていた。Garyはバークレーを出ているし他の二人も高度な音楽教育を受けているのでベーシックスキルが高い。その上で皆がまったくでしゃばること無くただただ美しい音色を追いかけていた。それは長い間音楽を愛し続けてしっかり地に足を着けて生きてきた大人にしかできない安定感のある ライブアンビエントミュージック だった。会場の大人は皆楽しんでいたし、そのやわらかくてあたたかい雰囲気に包まれて子供達もとても安心していて楽し気で可愛らしかった。ステージが終わってから『今日の君たちみたいな音楽は若者には絶対できない。Calm Music って感じだった。若者はあんな風に我慢できないだろ?』といったら皆笑っていたけど、ジョークのつもりでは無くて本当にそんな感じだったのだ。俺は久しぶりに素直に感動してしまった。

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そんなわけで続いて始まった俺のソロセットは少し荒めの音になった。同じことをやっても仕方がないし場面を展開させるのも演奏者の重要な役目…と大人なことを言ってみたいところだが、単に俺は我慢のできない大人気無い輩なのだ(笑) 3人の作った会場の雰囲気は音が少々荒れたところで揺らぐことは無くて、俺は素晴らしい空気を纏って迷いも悩みも無い1時間のソロを弾き切って最後は丁寧に着地した。個人的には多少不足があったがお客さん達が楽しんでくれたのが解ったので文句はない。3人の奏でた音楽に背中を押された感じで大いに助けられた。ありがとう。やっぱり音楽ってすごい。30年以上弾き続けてもまだまだ学ぶことだらけで嬉しい限りだ。

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良い音楽とはいえ歌の無い演奏を2時間演ってすっかり終わりの雰囲気…と思いきやしばらくすると『セッションもやるんだろ?聞かせてよ』と後から来たお客さん達に急かされた。じゃあやりますかと Gary のピアノと俺のギターで即興セッション開始。夜も更けてきたのでお母さんでもあるCassieは子供達と帰宅。Richardは機材がトラブっていたのでそのまま Gary とのふたり旅。なんだかんだでもう長い付き合いになりつつあるので既に息はわかっている。実は実験音楽大好きで電子楽器のプログラムも自分でやってしまうテクニシャンでもある彼はじわじわテンションが上がってマニアックな音を投げてくる。こうなると会話をしているようなもんでお客さんはそっちのけになるが、会場に気を向けると皆楽しそうにしている。《今日は良いイベントになったなぁ》と安心してエンディングに向かった。最後はブコウスキーの朗読の一節をループした。

We have everything. We have nothing. We have everything. We have nothing...

即興セッションにしては珍しいくらい美しいエンディング。流石わかってるぜ Gary !! と笑顔で振り返ると彼が両手を広げてどうだって感じで笑っていた。ロバート・デニーロかよ!と心中で突っ込みつつ皆から笑顔と拍手をもらって Ssshhh Barの宴は終わった。素晴らしきかな。その後ハイテンションなままでオーナーのデビッドを交えて死ぬほど飲んで次の朝それはそれはえらいことになったが、まあ結果良しってことで。

Thank you for good time !! See you again !!