Never Ending Summer

バンコク在住日本人ギタリストの日記

ヨルアルク

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夜の酒場

 深夜の酒場での演奏が好きなのにはシンプルな理由がある。夜も更けると皆を縛っている世のしがらみは酒で解けて残るのはただの人間ばかり。解放された様々な人間の感情が渦巻く空間は異世界のようで居心地が良いが、それは陽が昇る数時間後にはあっさりと消えてしまう夢のようなものだ。朝になり街が動き出せばきれいさっぱり消えてしまう。それがたまらなく愛おしい。BARの演奏者というのは謂わば傍観者だ。特等席で観劇しているような贅沢な気分になる。バンコクの夜の盛り場には観光客が溢れているが、彼らが作り出す光景は一様で浅くあまり美しいものではない。それは彼らがここで生きているわけではないからだ。彼らの背後には物語はなくて一時だけ鎖を外されてはしゃいでいるだけの人間の剥き出しの欲望だけがある。それはそれで人間だし見ている分には面白いが、残念ながらそこには音楽がない。俺は音楽を探して夜を歩く。今までもこれからも変わらない。

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ミュージシャンは堕落した。堕落したというより作品制作の主導権をすっかりビジネスマンたちに移譲してしまった。彼らは学校を作り、彼らの商品を作るために必要な技術を持つ働き手を作り、知ったような顔で過去の遺産を食い荒らながら商品を作る。そして若いミュージシャンたちはそれに気付いてもいない。彼らは学んだ技術を自分の為に使わない。思考停止しているように見える。一部の恵まれた人間が彼らに日々の糧を与え、飼いならし、彼らの情熱や創造力を腐らせる。それでもこの世界には常に天才が現れるがその才能は金になるかならないかの2択で判別される。金にならないと判別されれば評価されない。人間は生き残るために状況に順応する。生まれたからには生き続けなくてはいけない。それは仕方のない話だ。

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そんなわけで俺は誰の言うことも聞かない。天才でもなけりゃたいした腕前もないが、愚直に子供の頃に夢見た道をどこまでも進むのだ。人生が終わるまでに1曲で良い。思い描いていた音楽を演奏をする為に生きている。