日々の事柄とギターのお話
雨が降り出して喜んだのもつかの間、まだ本格的な雨季に突入していないのでたいして雨は降らず、気温はぜんぜん下がらない。長時間の仕事を終えて夜の街に出ると灼けたアスファルトにそこそこの雨が降った結果、まさに《焼け石に水》状態でスチームサウナのようなえげつない湿気が充満していた。BTSを降りてバスに乗ると空調の無いバスの中は仕事帰りの皆さんの汗と排気ガスと街の各種異臭がブレンドされた香ばしい空気が充満していたもんで走り出して数分で別世界に旅立ちそうになって『これはヤバイ…吐くかも…』とあっという間に降りた。スチームサウナの中を２キロ程歩いてヨレヨレの体でアパートについてエントランスの猫たちに癒されて少しマシな気分でエレベータ―に乗り込むと今日一の異臭…肉食人種の加齢臭はマジでエグい。獣の檻に入り込んだのかと思った。本能に突き刺さる感じで逃げ出したくなる気持ちに抗えない。それに比べるとインド人やアラブ系の男性のスパイシーで強烈な体臭もとても良い匂いに感じるくらいだ。バンコクの街には普段からいろいろな匂いと臭いが溢れていて、それに慣れてしまったので毎回日本に降り立った時は真っ先に『無臭だ』と呟くことになる。臭覚からの情報の影響はとても強烈で興味深い。
週末の今日、明日は珍しく出かける予定だ。毎週籠って練習ってのも不健康なので友人からの誘いに乗ることにした。今日はどこに行くかまだ決まっていない(笑) 暑いので夕方以降になるだろうし。それともワット・アルンの改修工事が終わっているのでゆったり観に行くかな…船から見たことはあるがまだ行ったことが無い。俺がここに来た頃から改修工事が始まっていて終わったのが最近。川沿いの光景は古い町と新しい街が混ざっていて観光って感じがしてたまには良い。
明日はGOLFさんのジャズギターの師匠 John Stowell がNYから来るってことでライブを見にプラ・スーメンロードにある Dialogue Coffee and Gallery へ。ライブビデオの若いリズム隊の飛び跳ねるようなリズムと重鎮感漂うギターの音色のコントラストが素晴らしく良い。楽しみだ。ワークショップにも参加する予定だ。俺はただ習ったコードやスケールをなぞって垂れ流す中途半端なプレイヤーが退屈で大嫌い。自分自身は音楽理論を習うことすら放棄してきたが、師匠クラスになると美しい指の運びを見ているだけでも楽しい。その上すべての音に意志が宿っている。遅ればせながら少しずつ勉強していきたいと思っている。
GOLFさんは出会ってから事あるごとにアート・リンゼイをバンコクに呼びたいと言っているが、この感じだとそのうち実現するように見える。1年にひとりくらいのペースでNYのアンダーグラウンド系のミュージシャンがバンコクに来る。共演するとわかるがノイズを演っている時にキュィーングァバーピキピキピキガオーンと無茶苦茶に弾いているようでも実はものすごく上手いギタリスト達なので演奏は繊細にコントロールされている。良く聞くとノイズの音色や動きが皆微妙に似ていて興味深い。シーンの中でお互いに影響し合っているんだろうな。前回3年前に帰国した時に俺の音からタイの影響を感じたとミュージシャンの友人達に言われたが、自身はそれをよく解っていなかった。その後の3年間もタイ各地でいろいろな国のミュージシャンたちと共演した結果、また別の要素が加わっただろうけど、日々吸収していることなのでやはりなにがどうなっているのかは本人にはわからないもんだ。ただ、結果としてミュージシャンは定期的に旅をしなくてはいけないとは確信している。決まった場所で弾いていると進化できない。
勉強用のムービーをさがしている最中に見つけた全然有名じゃないソロギタリスト Ted Greene。1本目の映像で共演の歌のお姉さんはそこそこだけどこのギタリストはとてつもなく上手い。まさに自由自在だ。ゆったりした雰囲気のBARでこのレベルの音が聞けてしまうアメリカってやっぱり層が厚い。説明を捲し立てながら簡単そうに複雑な指運びを見せるオタクっぷりはもはや変態の域。でも一番すごいのはピッキング。アメリカ人は総じてピッキングが上手い…というより日本人ってピッキングが下手なんじゃないかなと思っている。今までいろいろ見たうえでの個人的な感想だけど。人生全てギターに費やしてるこの空気感がおもろい。いろいろ教材系の映像を見てみたけどこの人が一番楽しく見られた。てことで、しばらくはこのおっちゃんを俺の先生にする(笑)
