Never Ending Summer

バンコク在住日本人ギタリストの日記

The turn of the season

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なんだかんだでもう30年以上の長きに渡ってしつこく人前で演奏しているわけだが、その中で時節の変わり目を感じることは多々ある。一番わかりやすいのは結婚、出産だ。20代のバンドマンはみんな夢と希望と自信に満ち溢れている。30代が近づいてくると副業が忙しくなってくるし少しずつ音楽に使える時間と情熱を維持するのは難しくなってくる。付き合っている女性からもタイムリミットを宣告され、両親からもヤイヤイ言われ始める(笑)俺の周りの連中は俺よりぜんぜん若いので今まさにそんな感じの一番難しい時期にさしかかっている連中が多くて、何度目かの時節の変わり目を感じている。

音楽、特にPOPSやROCKといったジャンルのややこしい部分は何が売れるかわからないってことに尽きる。スポーツ選手はある程度打ち込んでやっていればそのうちに明確に自分の才能の有無を自覚できるだろうし、身体を使うダンサーもそうだろう。クラッシックの楽器奏者などもアスリートに近いので10代の時点で才能の有無を思い知らされてすっかり淘汰されてしまう。厳しい世界で家族を持って生き抜く為には、どこかの時点で夢を振り捨てて現実と折り合う必要がある。全てを手に入れるのは難しい。

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最近はROCKもすっかり学校を出てやる音楽になってしまっているので同様になりつつあるが、それでも未だにガキの頃からつるんでいた連中が組んだバンドが不器用なのに奇跡のような音を出すってことはあるわけで、もともとROCKの本質はここにあるし、だからこそ不遇な若者の心を打った。世の中は不公平なものだし以前より巧妙に隠されているがそれでも明らかにヒエラルキーが存在しているわけで、一発逆転のドラマが熱狂を生んだし、一生をかけてやってやろうって連中が生まれたわけだ。タイにおいては経済的な理由で電気楽器を使った音楽は小金持ちのご子息の余技って側面が大きいが、それでも少し前の時代には成り上がり的ドラマを成し遂げたバンドはいくつかあったようだ。現在はすでにビジネスとして成立してしまっているので、よほどの才能がない限り下層の人間がそれを打破するのは難しいように見える。最近ROCKは死んだってな記事をよく見るが、実際はだいぶ前に既に死んでいたってのが正しい。ただ、次にそのぶ厚い壁をぶっ壊した奴が出てくれば本当の伝説を作れる。

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さておき、幾多の若いミュージシャン達の嘆きと諦めを踏み越えて未だに歩を止めない俺はゾンビの親玉みたいなもんだ。ある意味俺こそ既に死んでいるのかもしれない(笑)なんだかんだと思い返しているのは日本に演奏しに行こうと決めたからだ。ライブをやるにあたって日本語で2019年版の biography(略歴)を作ろうと作業を始めたら、当然無駄に長い不毛な日々を振り返ることになってしまった。いや~冗談じゃなくほんまに長い。よく疑問に思わず飽きもせず地味なライブを続けられるなぁと自分で感心した。

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この国に来てブッキング為に英語の biography を作った時に最初に相談した外国暮らしの長い友人に言われたことは『日本のアーティストのBioは無駄にシリアスで長い』ということだった。日本のアンダーグラウンドアーティストの略歴に慣れていた俺は同様にだらだらとストーリーのような書き方をしていたが、要は90年代のラッパーのリリックようなうだうだ理屈っぽい自分語りは必要なくて実績と音楽的バックボーンだけ書けば良いってことだった。なんだか納得できたのでとにかくシンプルに書き換えた。ここ数年は英語版、タイ語版しか必要なかったのでそれをある程度改訂しながら進んできたが、日本語で書き直すにあたっては『さてどうしたもんだか…日本の皆さんはある程度うだうだ言った方が楽しめるのかな?』と今度は逆の悩み方をしている。例えばアルゼンチンのドラマーのセルヒオの略歴は仕事をたくさんしてきたこともあってビックリするくらい長かった。参加したアルバムやフェスだけで2ページくらいあったもんで、長過ぎるやろ…と簡略化しようとしたらそこは頑なに拒否された(笑)NYから来たインド人シンガーも同様にものすごく長い経歴を送って来た。結局お国柄によって変わるわけで何が正解なのかはよくわからない。

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そんなわけで世間に順応できる連中は皆そこそこの場所に収まったり音楽を趣味に替えて副業を本業にしたり就職したりと言う感じの昨今、ここ数年迷走を続けていた俺の大好きなタイ人ぶっ飛びアーティストは今故郷の街フアヒンで二度目の商売にチャレンジ中。彼は普通の生活には全く向いていない性格をしているので一度目のチャレンジは大失敗。その後一時期ヨーロッパに脱出したが、案の定順応できず故郷に舞い戻って来た。何が問題かって最近は音楽の世界もものすごくビジネスライクなのでミュージシャンでも扱いやすい人しか生きていけなくてぶっ飛びすぎている特異な人間は居場所を見つけられないってことだ。彼は爆発的なエネルギーを持っているし異彩を放っているので未だに若い連中にも人気もあるが、所謂仕事の音楽がまったくできない。演奏を始めたら自分を制御できないのだ。なので昨今の音楽業界にはもちろん順応できない。この前フアヒンで久しぶりに会ったが少ししょぼくれていた。

『よう、ひさしぶり!どんな感じだ?』

『KOTA、久しぶり。相変わらず色々な場所で演奏してるね。俺は今は商売の準備をしているのであまり音楽ができないんだ。家族の為にがんばらなくちゃいけないんだよ』

『そらそうだ。先ずは子供の為にがんばれよ。んで落ち着いたら復帰しろよ。ただ、お前は生粋のアーティストだから普通の生活ができるとは俺には思えないけどな(笑)またそのうち一緒にやろうぜ』

『今回はがんばるよKOTA(苦笑)そのあとでまた一緒にやろう』

『もちろん。がんばれよ』

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幾度となく目の前で繰り広げられるこのターンにおいてはみんな一様にしょぼくれて俺に同じような感じのことを言う。

『子供の為にがんばらなくちゃいけないんだよ』

『嫁がうるさいし云々』

そいて最後には

『KOTAがうらやましいよ』

俺は毎回同じ言葉を返す。

『何言ってるんだ。俺にはこれ以外何もない。君には家族がいる。なんて素晴らしい人生だ。羨ましい限りだ。君は正しい人生を歩いている。だから楽しめよ。音楽なんていつでもできるさ。情熱を失わなければ死ぬまでずっとできる』

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